【4月20日WEB対談】『生野区こども地域包括ケアシステムのめざすもの』サイボウズ株式会社 青野慶久社長/生野区長 山口照美









山口生野区長の山口です。こんにちは。



青野:ご無沙汰しています。



山口
今回、事業連携協定を結ばせていただき、ありがとうございます。今回、ちょうど新型コロナウイルス対策と人事異動の時期が重なったことで、家庭にアウトリーチすることが難しくなっています。さらに、学校や保育園でつかんでいたこどもたちがずっと家にいるので、全国的に児童虐待のリスクが上がっているといわれている中で、このシステムも使ってこどもたちを守っていけるということで、本当にありがたく思っています。



青野
本当に、コロナのせいでこどもたちの虐待が危ないというのは、言われていますよね。



山口
そうですね。世界的にもDVであるとか児童虐待というのは、家にずっといることでリスクが上がっているところですし、「助けて」が言いにくいと思うんです。LINEやメールで相談できるところを厚労省なども発表もしていますが、学校に行けていれば言えるところ、家にいては「助けて」が言いにくい。情報発信できるところ、相談先をどんどん紹介してほしいと思っています。



青野
本当ですね。こういう時に、情報機器を使いまくっていろんなところから情報をひっかけて、共有して解決していかないといけないですね。



山口
今回の「生野区こども地域包括ケアシステム」という名前にさせてもらったんですけど、児童虐待の緊急の対応に関しては、わりとみんなしっかり動いているんです。ただ、重篤化する前、警察や児童相談所が介入するもっともっと手前で防げる仕組みっていうのは絶対にいるなと区長になってからずっと思っていることなんです。それで今回、kintoneを使って区内にいろいろ散らばっている支援者であったり、行政の各機関であったり、専門家がつながって情報共有をすることで地域の中に「ケアできる人がたくさん増える」ことを目指しています。

困ったら(kintoneに)すぐ質問を投げて、誰かが答えることができたら、まちそのもののケアする力っていうのが高まっていくんじゃないかな、それが重大な児童虐待の防止にも絶対につながると考えています。




青野
今回の資料を見せていただいて、一番驚いたのがそこで、医療でいうと「予防」の領域ですよね。虐待が出てきてから解決する、そこがどうしてもニュースになりやすいのですが、その前に予防線を張っておく方が、はるかに効率がいい。



山口
どうしても児童虐待防止は対症療法になってしまいがちなんです。現場はかなり人も少なくって、自治体同士で人材を奪い合っているような状況です。そんな中でいったん一時保護します。そのうち、家庭に戻しましょうということで、日本はこどもを家庭に戻していくというのが基本なんですけど、でもちょっと気になるな、そのあと大丈夫かなっていうような子たちが、結局「地域で見守り」という形になります。そこでまたリスクが上がった時に重篤化するということもありますので、やっぱり「通報したらもう終わりやねん」とか「一時保護するかしないか」その間がないっていう状態が、実は大きなリスクを生んでるんじゃないかなと思っています。



青野
それを今回の場合だと、職種横断でされるわけですね。



山口
はい。この図にある通り、家庭とこどもたちにいろんな人たちが関わっています。特に生野区役所の子育て支援室ですが、区役所の中にもいろんな担当がバラバラといます。ひとり親支援の担当者がいれば、ソーシャルワーカーもいれば、保健師もいれば……。
そういう人たちがもちろんつながることは基本なんですけれども、地域福祉ネットワークをずっと支えている社会福祉協議会という地域とつながっている団体がありますので、こことの連携を人も送って強化しながら、またいろんな子育て支援施設、それから学校園関係、こどもの居場所をやっている民間の方とつながることによって、こどもを見守るネットワークがまちにできていく。

そうしたら、多少人事異動があっても、まちそのものに「こどもをケアする力」がしっかりついていくと思うんです。こんなことで、使わせていただこうと思っていますので、よろしくお願いします。




青野
すばらしいですね!これは名前がよくて、「地域包括ケア」ってどっちかというと高齢者の文脈で使われてきた言葉を、「こども」とつけるだけで、これは意味深い。この言葉は発明されたんですか?



山口
全国的に自治体によってはこども支援に力を入れた地域包括ケアの運用をしているところもありますし、(生野区でも)地域福祉コーディネーターと言われる方やボランティアの方で積極的にこども食堂をやっている方もいるんですね。ただ、優先順位としてはどうしても高齢者の方が高くなります。介護施設と連携しているので当然なんですけれども……。

すでにある地域福祉ネットワークに、「こどもを見守る視点やプロの専門性をオンする」という考え方の方が、一からまたこども向けの施策を作ったり構築するよりもずっと早いということで、あえて同じ名前を使ったというところです。



青野
これ、すごいいいと思いますけどね。「包括ケア」という言葉も何年も使われてきて、概念として広がっているところに、「要はあれのこども版なんだな」とすごくわかりやすいですよね。地域のいろんな人と連携しながら、包括的にこどもを見守っていこうという……これ発明だと思います。



山口
たとえば夏に、一人暮らしの高齢者も多いまちなので民生委員さんとかが一軒一軒、水を持って「大丈夫ですか?」って持って回っていくその隣の家に、気になる子育て家庭があったらついでに声をかけてもらうことができます。周りの人とつながれない保護者やこどもへの声のかけ方は、高齢の方に向けた声かけと違う部分もありますので、その時の声のかけ方などを、この仕組みを使ってレクチャーしたりQAを貯めたりしながら、みんなで使っていければと思っています。



青野
そういう意味では、こどものためとか高齢者のためとか分けるよりは、この生野区の中で困っている人たちがつながりながら支え合っていくとそういうビジョンにもつながっていきそうですね。



山口
一番いいのは、要保護児童対策地域協議会というところで、個人情報も共有して、何かあったら近くの人にぱっと行けるっていうのがもちろん理想的です。実際、サイボウズさんの無償で提供している中では、そういった自治体さんもあるとは聞いているんですけども、なかなか大阪市のルールも厳しいところもあります。

あとかなり個人情報はセンシティブで「その情報をあなたはどこから知ったんですか」というのを、同意が取れないと難しいところもあるので、まずは予防のネットワークをしっかり広げて、その中で必要性に応じて個人情報も扱えるようになったら、もっと強いシステムになっていくのかなぁと思っています。



青野
その辺りの進め方も、やはり山口さん、現実的にうまくステップを作ったなと思っているところです。実際、その辺が気になる方もいらっしゃると思いますし、不安だから情報を出してくれないというそもそもの問題にもなっていきますから、ステップを踏みながら、心理的安全性を高めながら進められるといいと思います。





山口
そうですね。



青野
そもそもこれITイヤだ、という人もいらっしゃいますか?



山口
まだまだ使い慣れていない方や、「なんですか、そのkintoneってのは」「クラウドってなんですか」とみたいな世界からスタートする部分もありますので、そこは人を確保してレクチャーしたりとか、協力もしてもらいながら進めます。

今まさに(新型コロナで)危機の時に機器を使いこなせる人と使いこなせない人で情報の差ができたり、在宅で仕事できる人、できない人の差にもなっているはITスキルの差もあると思うんです。そういう意味ではみんなが使えた方がいい、というきっかけになったらいいですね。




青野
ありがとうございます。そうですね、まさにkintoneの売りというのがカスタマイズ性の高さ、言い換えると、使うのが難しい人がいれば、そのレベルまで合わせるように作ればいい。このボタンが多いと言われたら減らせるし、小さいと言われたらどでかいボタンをボコッと置くこともできるし、アプリがいっぱいあってわからないと言われたら3つにしましょうかと絞ることもできる。使う人のレベルに合わせながら、慣れてくればまたどんどん変えていけばいいんで、パッケージのお仕着せだとなかなか使いきれないところを、レベルに合わせて使っていければと思いますけどね。



山口
まずはつながっていることが一番ありがたいので、自己紹介のスレッドを作ってテスト的に運用しています。人事異動の季節なんで「ひとり親相談員のだれだれです、火曜日と何曜日に生野区役所にいます」とか、「スクールソーシャルワーカーのだれだれです」とか、会わずして顔合わせの代わりのやりとりができるというのは非常に、タイムリーでありがたい仕組みですね。





青野
「いいね」ボタンも押していただいて。



山口
あれ便利ですね(笑)。あと全部検索できるというのは強みですね。QAを貯めていきたいです。



青野
そうですね。フローとストックという言い方をITの専門家はするんですけど、もちろん、日々の仕事は目の前に入ってきてどんどん流れていくんですけど、これをちゃんとストックしておけると、これが次に学習効果を上げたりとか、検索すると答えが出てくる。いい形でフローとストックが回り始めると、みなさん便利に感じていただけると思います。



山口
がんばってネタも貯めていきたいですし、今は新型コロナウイルス対策で次々と支援情報が入ってきてるんです。この人に使える支援情報は何かとか、どこに聞いたらいいんやろうとか、地域に散らばっている支援者さんたちが悩んでいるところでもあるので、そういったところでは、迅速に最新の情報を共有しながら、あとは細かい事例は個人情報に気をつけながら共有していけば、研修なんかも減らせそうです。



青野
いやーもう本当にそうですよ。コロナの支援策も出てきていますけれども、あれ自治体の窓口がパンクするだろうなと思いますね。電話でつかまって長いこと話されているとか、できればウェブを使って受付とフローのところを流れるようにしておかないと、窓口の人、大変だなぁと思いますね。




青野
今、kintoneを導入していただいて、まずはご挨拶のところからはじめて、次はどういうところから始めていかれようとお考えですか?



山口
支援情報はこっちからもどんどん載せるようにはしていますし、そのうち質問とかが来るようになってくると思うので、QAを充実させていきたいと思っています。あと、アプリで一つ、私が作ったんですけど、物資がどこにあるか、こども食堂とかでよくあるんですけど、お米これだけ寄附もらったからちょっと余ってるよとか、そういった情報が登録できて、じゃあもらいます、と言って数を(在庫から)引いて、誰誰がもらいました!とコメントにピッと書けるようなのは一個作ってみたので、これが機能したら、これからいろんな物資のやりとりが横のこども食堂同士とかこどもの居場所同士でできるんじゃないかなと思っています。



青野
すばらしいですね。kintoneは災害の時にもよく使われまして、まさに物資目的ですよね、どの避難所に何人いて、どれぐらい物資が必要で、それを持っている人がどこにいて、それを今誰がどこまで持っていってるのか、これを電話やメールでやりとりしていたらまず混乱してどうにもならないんですけど、同じ場所で全部共有されていれば、とりあえずその中を見ていれば全体最適に進めることができる。情報が分散しているから、全体が見えなくなっちゃう。そういうところで、まとめるアプリケーションを作られるのは本当にいいと思います。




山口
それぞれの施設や支援団体でとりあえず一人、入力できる人がいたら各自どんどん入れていく習慣さえつけば、勝手に区内にあるいろんな物資が一目で集約できるようにもなるので、効率化にも非常にいいかなと思っています。

あとですね、この「こども地域包括ケアシステムを作るよ」ということを言った時に、みんなが恐れるのが「会議が増える」ということなんです。どうしても新しい何かをやろうとすると、すぐ打ち合わせ、会議が増えてしまう。私は、それは違う、増やさない方向でちょっとしたやりとりはネットの中でやったらいいやん、っていうことで、スペース(メンバーごとのグループ)を分けたりできるのでできるだけ新しい会議を増やさんとやろな、という風には言ってます。



青野
いいですね!すばらしいですね!スペースは分かれているんだけど、お互いにのぞきに行けるような仕組みにすると、無駄な確認と報告のための会議なんかは減らせると思いますので。「見てくれたらわかるよ」っていうのが、いきさつも含めてそこに載っていれば言えますね。



山口
ありがとうございます。この「生野区こども地域包括ケアシステム」と、「生野区まちぐるみ子育て宣言」というのもやってるんですけど、とにかく昔は近所のおっちゃんが外で泣いてる子に「どうしたんや?」って話を聞いてくれたり、「オカアチャンしんどそうやな、預かったるわ」というようなおばちゃんがいたり、そういった「ご近所育児」があったからセーフティネットになっていた部分があったと思うんです。

今は報道でしんどい虐待のこどもが亡くなるような話がセンセーショナルにわーっと報道されて、その時に通報も増えるんですけど、「そういう親はひどい親や!」という目で見て、通報をして関係を持たない、じゃなくて、親には親のしんどさであったりそこに至るまでの悩みが言えなかったり地域で孤立していたりというところがずっとあったと思うんですよね。

パンパンにふくらんだ風船が最後にパーンと割れてしまうっていうところで、ちょっと前から上手にガスを抜いていたらこんなことにならへんかったのに、っていうのは、きっとある。だからこの、ご近所でこどもを見るねん、みんなで見るねん、ってじゃあどんな風に見たらいいんや、どこにつないだらいいんや、こんな居場所があるよ、こんな専門家がいるよ、というのが見える化できたら、こどもをしっかり守れるまちができるんじゃないかと思ってますし、うちだけじゃなくてぜひ他の自治体にも広がっていったら嬉しいです。




青野
そうですね。そういう意味では昭和時代のおせっかいなご近所のおじちゃんおばちゃんみたいな人を、新しい時代の新しい形で実現していくのかもしれませんね。自分も、育ってきたのはいろんな人が支援してくれたからであって、それを支援する側に回って、ネットワークができればね、こどもが育ちやすいまちになっていくのかもしれませんね。



山口
最後に、新型コロナに関わって「今」と「後」で共有しておきたいことがあります。今のことで言うと、家にずっと籠って昼夜逆転もし、狭い家の中でずっと家族がおって、ストレスが溜まっている状態かなぁと思うんです。

ぜひ発信力のあるサイボウズさんとかに、いろんな支援情報であったり相談先であったり、またわかりやすく発信していただいたらと助かります。うちはうちで、困った人たちがつながった時にしっかり支援できるように、行政としてはやらないといけませんし、このネットワークも広げていきたいです。

その「後」のことですが、これから経済的に間違いなくしんどくなります。その時に、やっぱり行政の支援ってどんくさいところがあるんです。どうしても税を預かって私たち仕事をしていますので、手続きしっかりしなあかんとか、いろんな証明がいったりとか、文章もわかりやすくしたいのは山々なんですけど、今も厚労省も経産省も国も忙しいし、私たち現場もわかりやすく伝えたいと思っていても忙しい面もあります。ぜひ、民間の方のうまい見せ方とかやり方とか伝え方とか、教えていただいて、また広めていただいて、一緒にこの難局を乗り切って、今後起こる生活不安を抱える方の支援をしっかりしていかないと、それがまたこどもに直結していくので、ぜひまたご協力よろしくお願いします。



青野
まさに、おっしゃる通りで、コロナで本当に社会が変わるかもしれない、特に日本の古いやり方が変わるかもしれないという手ごたえを感じています。私たちも情報共有ツールを作って23年になりますけど、もうずーーっと「なんでITで情報共有せなあかんねん、フェイストゥーフェイスが大事やろ!」とか「紙には紙の良さがあんねん!」って言われ続けて23年ですからね(笑)。本当に社会が変わらない。

働き方の件でもそうですよね。在宅勤務とかできたら働く人、楽になりますよ、同じ場所に満員電車で毎日出勤してきてるのがずっと破れなかったんですけど、ある意味、人が集まれなくなったことで強制的に切り替わらざるを得なくなってしまった。今、私たちのところにはおかげさまで問い合わせも増えていますし、これを機にチャレンジする会社も増えています。そこをしっかり支援していきたいなと。

今日入れて明日からうまくやれるという話ではないんですけれども、ここから何か月かかけてコツを覚えながら、アフターコロナの時にはもっともっと生産性も上がってるし、幸福度も上がってるというようなそんな社会を目指していきたいと思っています。



山口
ありがとうございます。期待しています。またこれを機に「こども地域包括ケアシステム」も応援していただき、また私たちも応援していただける以上は横にも展開していきたいですし、社会にも返していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。



青野
こちらこそぜひ「生野モデル」を成功させて展開していきましょう!



山口
がんばります!ありがとうございました。





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