いくのdeリノベ1月号:“枠”のない場所


昼間は静かな民家になじんで、この長屋の一角が店とは気づかない。夜になると、ぽっと浮かび上がる灯り。扉を開けると、人通りの少ない道路から一変、電球色のあたたかな空気に包まれる。
1階では料理がふるまわれ、2階へあがると、ごろりと寝ころびたくなるような空間が広がっている。ずらりと並ぶ漫画は、こだわりぬかれたもの。つい自分だけの時間に没頭したくなる。




漫画を置くことになったのは、杉田さんともう一人の店主中川さんが、共に漫画好きだったことから。
手持ちの漫画だけでは数が足りなかったので、閉店する漫画喫茶からの漫画を取り寄せたそう。
漫画は、定期的に入れ替えられていて、来る人を飽きさせない。漫画のセレクトをしているのは、その漫画喫茶で働いていた女性。「のんちゃん」の愛称でお客さんからも慕われている。




店主である杉田さんが友人と2人でスタートさせたこの場所は、当初から定義もカテゴリーも設定していない。ただ、なんとなく“そこには漫画があって、人が集まれる場所“ということだけは漠然とイメージしていたそう。


北海道のルスツリゾートでの仕事を終えた杉田さんを、中川さんが北海道まで迎えに行ったそう。数日かけ、在来線で大阪まで帰ってくる道中、各地で過疎の一途をたどる地方を目の当たりにしたり、その地で地域を活性するため、一生懸命になっている人たちとの出会いがあったり、いろいろなことを感じ、考えながら、2人でどんなことができるか、しっかり時間をかけて話し合ったそう。その時はまだ存在していないニマの誕生がこの旅で芽吹き始めた。




二人で歩いていて、たまたま見つけた築数十年のこの物件。飲食店としてすでに一度リノベーションされていたことと、オーナーからの、「家が壊れない限りは好きにしていい」の言葉が決め手だった。
建物の土台や間取りはそのままにしたものの、壁全面にモザイク模様に貼った板、大型の漫画棚、流しのタイル、これらは何の建築の知識を持たない数人が「思いつき」を頼りに、3ヶ月の時間を要し作り上げたもの。
時には、建築関係の知り合いからアドバイスを受け、YouTubeでやり方をまね、手探りの日々だったという。そう話す杉田さんの表情からは、それが刺激的で楽しい時間であったことが見て取れる。



杉田さん、中川さんの他に、ニマの立役者がいる。レイ君という当時大学生だった若者だ。
出会いは、中川さんがモロッコ旅行中にラクダに乗っているときに、同じようにラクダに乗っていたレイ君と会話をしたことから。そんな縁があり、中川さんが運営するシェアハウスに住み始め、リノベーションを手伝ってくれることになった彼は、思いもかけない器用さを発揮したという。下段になるにつれ奥行きのある漫画の棚はじめ、緻密さがもとめられる作業
メインだった2階のリノベでは、床には板を張った。部屋の角(かど)にあたる部分では、張り合わす板に少しの隙間ができた。そこに人工芝を埋めるなど、素人ならではの自由で遊びの効いた発想が見えておもしろい。
ニマには、リノベーションの様子を記録した写真集が設置されている。遊びを取り入れ、楽しんでリノベーションした様子を垣間見ることができる。


北海道の先端から沖縄まで、一つの場所にとどまることなく、経験してきた仕事は50を超えるという。常に変化を求め自由な生き方を望んでいるのかと想像するが、そんな杉田さんが、この店を構え3年目を迎えた。この場所には、いろんな人が入れ代わり立ち代わり来て、“自分が好きなこと”を持ち寄る。それを、その日ここに来た人と共に楽しむ。そんな会が毎週のように繰り広げられている。「1つの場所に居ながら常に新しい景色を楽しんでいる」と話す姿に、気負いはまるでない。自然に身を任せるように、変化していく店を、店主でありながらお客と共に楽しむ。枠にはまらず、店はこれからも新しい景色を見せ続ける。




ニマでの“自分が好きなこと”を持ち寄る会は年間150にものぼる。
歴史、金融、地学、宇宙、健康、地方都市など、テーマは自由で、自分が好きだったり得意だったりすることを話したり、展示したり、体験してもらったり。インスタントラーメンやレトルトカレーの食べ比べ会や、紙芝居、写真展、占星術、ボードゲーム、バイク、こんなテーマもあり、気を張らず気軽に楽しめる会が多い。杉田さん自身も、パフォーマーとして芝居を披露する日もある。
「やってみたいことを試すことができる場所、やりやすい場所であればいい」と話す。自らも表現者である杉田さんは、“やってみたいことがある人を応援したい、その人の可能性を信じたい”という気持ちが根底にある。それは、もう一人の店主中川さんも同じ思いを持っている。
初めてニマを訪れるお客さんは、イベントからが多いとか。お客さんが増えるのは単純にうれしいことだが、杉田さんは「急いで広がらない方がいい、ゆっくり広がればいい。」と話す。


店に関わるいろいろな人のこと
杉田さんのまわりにはいろいろな人がいて、そこにいる人たちが自然と手伝ってくれる。
中川さんの大学時代の友人「あさいちゃん」と慕われている女性もその一人。仕事が終わってからお店に来てあれこれこなす。はじける笑顔が印象的だ。





今はベトナムに暮らすもう一人の店主、中川さんのこと
今年3月に家族とともにベトナムに行き、そこで歯医者として働く中川さん。
杉田さんとは友人でもあるが、ファンでもあるという。杉田さんの持っているそのままの感性で生きていってほしいと願っているそう。
日本で歯科医師として勤めていたが、ベトナムでも医療ライセンスを取得した。
患者さんの8割くらいが日本人で、残り2割がベトナム人だそう。中川さんが住むハノイでは、1万人もの日本人が住んでいるのだとか。
お子さんはまだ1歳。小さいころから違うことが当たり前の環境で育てたかったと話す中川さん。ベトナムでは1歳半から通えるという幼稚園。週3回、お子さんは楽しく通っているそう。ハノイは何でも揃い、生活に不便はないそうだ。あと数年はここで暮らす予定とはなす中川さん。
ニマはどんなところか聞いてみた。「テーマ設定はしていないし、どんな場所であるべきかは決めてこなかった。人がチャレンジでき、表現することをあたたかく受け入れてくれる土壌がある場所。やったらいいよと言ってくれる、そんな可能性を信じる場所。」と教えてくれた。「誰でも入れる、杉田さんがいなくてもやっていける、そんな場所になってほしい。若い人たちの力を期待している。」と中川さんは付け加えた。


中川さんがハノイでの生活の写真を送ってくれました!





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